幕間というか 付け足りというか
ほんの30分もなかったというに、
そんな短い間の正座でしっかり足が痺れてしまったイエスだったのを、
大変だろうから助けてあげたくてと、ブッダが抱え上げたところ。
『〜〜〜〜ブッダのバカ、大嫌いだっ!!』
自分は敷き布団一枚をぜいぜい言いつつ抱えた身だのに、
成人男性一人をひょいと軽々、
事もなげに抱えられるブッダなのへ劣等感を覚えたか。
それともそれとも、
女の子相手みたいな“壊れ物扱い”型の抱き上げ方をされたのが、
日頃、こちらがリードしている関係にあるつもりだっただけに、
そこをあっさりと玉なしにされたようで、
恥ずかしくて気に入らなんだ…というのもあってのことか。
『 大嫌いだっ!!』
カァッと頭に血が昇った勢いのまま、
先の暴言を畏れ多くも釈迦牟尼様へ叩きつけ、
そのまま這うようにして
トイレへ立て籠もってしまったイエス様だったが。
頭が冷えれば、
どっちが悪かったかは一目瞭然の明白なこと
それが判らないほど愚かでもなければ、
人の痛みをちゃんと感じ取れる 神の和子様でもあり。
理不尽な罵声を浴びせられたブッダを
一人ぼっちにしておくなんてと あたふた飛び出し、
『駄々をこねるのに、
選りにもよって ブッダを傷つけてしまうなんて。』
甲斐性もないくせに偉そうな我儘言ってごめんなさいと頭を下げれば、
『…何言ってるかな。』
力こぶがあることだけが、
甲斐性があるってことじゃあないでしょう?と
片意地を張っていた尖った肩を
どうどうと宥めてくれた優しい伴侶様は、
『あのね?
私はいつだってイエスに支えられて来たんだよ?』
何も持たぬ身であることこそと追及して来たあまり、
誰かに甘えること、縋ることをすっかりと忘れ去っていて。
甘えてくれて甘やかしてもくれる。
そんな人を得られたなんて初めてで…。
甘えてくれるのがこんなに嬉しいなんて知らなかったと、
だから いつだってイエスに支えられているんだよと言うばかりで、
少しも責めずに許してくれて。
“やっぱり私、果報者なんだなぁvv”
またぞろ痺れてしまった足を延ばし、
向こう脛やふくら脛をさわさわ摩って、
何とか復活まで漕ぎ着けさせておれば。
「はい、お待たせしました。」
一口大ずつにくるんと丸めた蕎麦を盛った大皿は、
味のある手書きの模様入りの、やや重いめの焼きもの風。
めんつゆ用の小鉢に薬味を盛った鉢、
各々の箸、温め直した昨夜のテンプラなどなど、
大きめの角盆にあれこれ載せて運んで来たブッダであり。
昼を回って増す増すと気温も上がっていたため、
涼しげなお昼ご飯へは、
イエスも わあと嬉しそうにお顔をほころばせる。
針のように細く刻まれたショウガやミョウガは、
蕎麦の細長さに添わせて食べやすく。
刻まれた万能ネギの青い香りも清々しく、
めんつゆにはお好みでワサビを溶いて、さて。
「いただきますvv」
食事前のご挨拶は、間を取って日本風。
両手を合わせてご唱和下さい型ので 通しておいでのお二人で。
箸の先で器用に蕎麦を摘まみ取り、
つゆへつけては口へと運ぶ。
わ、ミョウガ美味しいvv
うん。もう出てて夏だなぁって。
判る判る♪
そんなところで季節を感じ取れるなんて、
私たちって すっかり日本に馴染んで来てるよねと。
短いやり取りの中で、
そんな同感や共鳴へ嬉しそうに微笑んで。
窓辺ではカーテンが揺れ、
どこかの通りからだろう、
自転車のチリリンというベルが聞こえて。
いかにものどかな昼間の空気が、
とほんと たゆたっているばかりの、
平日の正午過ぎの一幕ではあったのだが。
「……。」
温め直したカボチャのテンプラ、
サクサクとした歯触りごと“美味しい〜vv”と
無邪気に堪能していたイエスが、
ふと。
それまで器用に操っていた箸を置き、
胡座をかいてた脚を引き上げると立ち上がって、
「…? イエス?」
今日は腰高窓を挟む格好で向かい合ってた、
戸口側にいるブッダの傍まで、
窓側を回って足を運んだ彼であり。
ちょっとお行儀悪くも
まだ口の中にあったらしいもの、ごくんと飲み下してから。
すとんと膝から、畳の上、
ブッダの真横へ座り込み直したものだから。
「どうしたの? ワサビ、足すの?」
練りワサビのチューブ、
大皿の陰から取ろうとしかかったブッダへ。
ちょっぴり何かを伺うような、
いやいや、むしろ
気づいてないんだねといたわるような
そんな静かな眼差しを向けたそのまま。
軽く腰を浮かせて身を伸ばし、
二の腕の上からという上体まるごと、
くるりとその腕で包み込むように抱きしめてしまう。
「え? え? え?/////////」
何なに、どうしたの?
テンプラの油に胸焼けしちゃったかな?と、
具合が悪くなったのかと まずは案じたところが、
通常運転のブッダではあったが、
「…ごめん。」
胸と胸とを合わせ、お顔が肩口にまで来ているほどに、
ぎゅうとしっかり抱きすくめられ。
薄いTシャツ越し、
彼の腕がまとう筋骨の力強い感触へ、
しっかとという意志ごと伝えて来るのを感じてしまい。
憎からず想う人の温みへ、
あわわと赤面してしまったブッダだったものの、
「い、いえす?///////」
その抱擁、欲しいと縋るものというより、
護り癒すためのそれだということへも気がついて。
性急さを孕んだ束縛ではなく、
こちらの総身をくるみ込む、やさしい翼を感じるような、
そんな抱擁に包み込まれたというのは判ったが、
「あの…もう私、大丈夫だから。/////////」
人々を慈愛で照らす神の子だというに、
最愛のブッダからの親切心を突っぱね、
勘気を起こした挙句に暴言を吐いてしまったこと。
そんな暴挙を まだ心のどこかへ罪として気にしているのなら、
もう平気だから安心してと。
あまりに唐突なことだったがゆえ、
まだお箸も置かぬままだったブッダ様、
えっととそれを卓袱台へ戻しかけたが、
「お箸。気がついてないんでしょ。」
その気配を察してか、イエスがそんな言い方をし。
え?と戸惑うように動作を止めたところへ、
「ずっと逆さまに持ってたんだよ? ブッダってば。」
「あ…。///////」
色違いのお揃いを使っている二人であり、
よくあるデザインのものなので、上下も明らか…な筈なのに、
太い側で蕎麦を手繰っていた如来様。
器用なため 一向に不自由はなかったらしいが、
それでも気がつかないというのは尋常ではないことだと。
お向かいからそれを目撃し、ああ…と、
それが どうしてなのかにも気がついたイエスであったらしく。
「ごめんね、怖かったよね。」
「……。」
「私が悪いのに、あんな…人を呪うようなこと。」
「ちが…。/////////」
「違わないよ。」
言っていいことと悪いことがあるものねと、
柔らかな声で囁きつつ、愛しい肩をくるみ込み。
懐ろへ閉じ込めるよにして ぎゅうと抱きしめれば、
「〜〜〜〜。/////////」
もう鳧のついたこととし、見ないようにしていたものか。
けろりと平気なお顔でいたはずが、
“…もうもう、意地悪なんだから。///////”
人のこと、許容のある大人扱いしたくせに、
だから我慢しもしたのにね。
すんと小さく息をつき、
目許がじわじわ熱くなるのを隠すよに、
向かい合ってる頼もしい胸へ頬を擦りつける。
「ごめんね、辛かったよね?」
「…………うん。///////」
本音を言えば、そりゃあそりゃあショックだった。
他でもないイエスから“大嫌い”だなんて言われようとは、
それも、ああまで憎々しげに叫ばれたのだ、
その衝撃は計り知れない級のもので。
形は無いのに凄まじい切れ味の刀で、
背中から深々と心臓を突き通されたような、
そんな冷え冷えとした痛みに襲われた。
「甘えていいよって構えてて、それはないよね。」
「……。///////」
「我儘にも程があるよね。」
「……。//////////」
「こんな情けないお天気屋、もううんざりしちゃったよね?」
そう思われてもしょうがないかと、
あ〜あという苦笑交じりに呟くイエスだったが、
“………え?/////////”
背中を誰かがツンツンと引く気配。
誰かも何も、此処には二人しかいないわけで。
シャツを握ってやや下へ。ツンツンと引いてるお人、
どうしたの?と自分の懐ろを見下ろし、胸元を覗き込めば、
「…うんざりなんか してやんないもの。/////////」
ちぉっぴり潤みを増した眸での、
やや恨みがましげな上目遣いで見上げて来。
だがだが、そこへ
くうぅんという甘い鼻声をこぼしてから、
絞り出された一言だっただけに。
“う…うわぁ。///////”
何ですか、この可愛らしい如来様の降臨は。////
私を仏門へ帰依させんがための陰謀でしょうか。/////
甘えて甘えてと構えたはずのイエスの側が、
なのに“あわわ”と困惑するのも まま無理はない。
だって二千年紀越しで最愛の人としてきたお相手の、
意地は通すぞという かあいらしい抗いと、
含羞みという愛らしさとが混然一体となった、
甘酸っぱいひとにらみ。
…しかも、プレミア綴じ込み付録として
“でも実は甘えたいんだからね、判ってる?”という
心の声つきと来たもんで。
「……えっとぉ。/////」
ぎゅぎゅうと絞られた一途な眼差しで、
懸命に睨みつけられているにもかかわらず。
その同じ眼差しに“お迎えに来て”という
一種 困りようも差されている大反則っぷり。
でもでもそこがまた、
年長さんだもん、しかも甘え下手だもん
しょうがないよねぇなんて、
軽々と絆されてしまう可愛げでもあって。
“何だか私ばっかり、良い目見てないかなぁ。///////”
お迎えに来ましたよというご挨拶のその代わり。
ぎゅうと抱いてた腕を緩めて、
頬へ手を添え、指の腹でそおと撫で。
「〜〜〜、//////////」
ひくと震えた口許へ、
いぃい?と吐息だけで訊いてみれば。
お返事の声や頷きの仕草の代わりのように、
窓からの風になぶられて、
はさりと軽やかにほどけた髪がそれ以上はない答えだったから。
ちょっぴり涙ぐみかけてた頬に触れ、
それからと合わさった口許の柔らかさが、
やっとのこと 我慢も片意地もほどけた伴侶様だと伝えてくれて。
些細なことから発したすったもんだも、
やっと幕切れと相成った次第でございます。
お題 8 『お揃いだね』 の続き
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*私的にちょっと甘さが足りませんでしたので、
ブッダ様の側の心情とそのフォローを少々。
いくらなんでも
イエス様からあんな辛辣な一言浴びせられてはね。
解脱したお人とはいえ、
しれっと平静を保てる筈がないと思ってたわけです。
苛めてばかりでごめんなさい。
めーるふぉーむvv 
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